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米国反トラスト法の域外適用に関する米国第9巡回区控訴裁判所の最新判断
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February 9, 2026
1.概要
2026年1月8日、米国第9巡回区控訴裁判所は、米国企業であるSeagate Technology LLC(以下「Seagate」)及びその海外子会社であるSeagate ThailandとSeagate Singaporeが、日本発条株式会社(以下「日本発条」)に対して提起した、米国反トラスト法(独占禁止法)[1]に基づく請求(以下「本請求」)に関する主張の一部を認め、日本発条を支持するカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所の一部略式判決を破棄し、さらなる審理のため原審に差戻す判断(以下「本判決」)を下しました。[2]
本判決では、裁判所は、当事者間の米国内での取引行為が、カリフォルニア州における売買基本契約の交渉のみであったにもかかわらず、米国の外国取引反トラスト改善法(Foreign Trade Antitrust Improvements Act:FTAIA)の適用に必要な米国の商取引との関連性が存在すると認定し、その適用を認めました。[3]
本判決は、従前の米国第7巡回区控訴裁判所の判断に反するようにも見えますが、法人形態、及び、国際商取引における契約交渉・締結場所の選択を、慎重に検討することの重要性を改めて示すものとして、注目に値します。
2.外国取引反トラスト改善法(FTAIA)について
昨今、サプライチェーンの強靭化及び国内回帰がトレンドとなっていますが、サプライチェーンの国際的な広がりは、依然として国際商取引における中心的要素です。米国へ輸出する商品の製造業者及び輸出業者にとって、米国反トラスト法が米国の外での行為にどこまで適用されるのか、その範囲(及び同法違反に基づく刑事罰又は3倍額損害賠償[4]の内容)について正確に知ることは、極めて重要です。
以前、別記事[5]でも言及しましたが、シャーマン法[6]は、米国法でありながら、米国の外での行為にも適用される(域外適用される)という特性を持つものとして、国際的に異例な存在です。1982年に、米国議会は、米国裁判所において米国外で発生した反トラスト法上の損害について私人が訴訟を提起することを大幅に抑制することを目的とし、米国反トラスト法の域外適用の限界を明確化するために、FTAIAを制定しました。[7]
FTAIAは、まずシャーマン法が外国との貿易又は商取引を含む行為には適用されないという一般原則を設けました。次いで、その一般原則に対する二つの例外を定めることで、シャーマン法の適用対象となる外国における行為を限定しました。これら二つの例外は、しばしば「輸入除外(Import Exclusion)」及び「国内取引例外(Domestic Commerce Exception)」と呼ばれます。
輸入除外(Import Exclusion) とは、米国への輸入を「含む(involve)」取引に対して、シャーマン法の適用を可能とするものです。輸入取引を「含む」ということの意味や、外国における行為と米国への輸入との関係がどの程度近接していなければならないかといった点については、解釈に争いがあります。[8]
国内取引例外(Domestic Commerce Exception) とは、輸入取引以外の外国における商取引が、米国の国内取引に対して、直接的(direct)、実質的、かつ合理的に予見可能な影響を及ぼし、その影響が反トラスト法上の請求を生じさせるものである場合、シャーマン法の適用を可能とするものです。[9] 何が「直接的(direct)」な影響と見なされるかについては、裁判所の判断は分かれています。
このように、FTAIAは、問題とされている外国における行為が、外国でのみ損害を引き起こし、米国では損害を引き起こさない場合には、シャーマン法の適用を制限するという法律です。[10] しかし、FTAIAは、制定以来、その内容が難解でかつ冗長であることで悪名高く、その条文の文言の不明瞭さと、適用場面における曖昧さから、多くの裁判所がFTAIAの具体的な解釈・適用に苦慮してきました。
3.本判決要旨
完成品の輸入取引において、外国における反トラスト行為の影響を受けた部品が、当該完成品の一部として組み込まれていたとしても、輸入除外の要件を満たさず、シャーマン法は適用されない。しかし、当該完成品の輸入取引の交渉が米国内で行われ、結果として外国における反トラスト行為の影響を受けた部品が組み込まれた完成品が輸入された場合、当該取引は国内取引例外の要件を満たすものとして、シャーマン法の適用対象となる。
(1)Seagateの主張
ハードディスクドライブを製造する会社であるSeagateは、そのタイ及びシンガポールの子会社を通じて、米国の外で、日本発条により実行された違法な価格カルテルによって引き上げられた価格で、ハードディスクドライブの部品であるサスペンション・アセンブリを日本発条から購入しました。[11]
Seagateが製造したハードディスクドライブは、当該部品(サスペンション・アセンブリ)の価格が違法な価格カルテルによって引き上げられなかった場合よりも高い価格で、外国及び米国の消費者の双方に対して販売されました。[12]
したがって、Seagateは、FTAIAの輸入除外と国内取引例外の両方の例外が適用され、日本発条に対して米国反トラスト法に基づく請求を提起できると主張しました。
(2)裁判所の判断
ア.輸入除外
FTAIAの輸入除外を通じて、米国反トラスト法は、外国から米国に出荷又は販売される外国製品又はサービスに適用されます。前述のとおり、裁判所はFTAIAの不明瞭な文言の解釈に苦慮しており、いかなる取引が輸入除外として米国反トラスト法の対象となるのかという点について、意見が分かれています。
本件において、裁判所は、その未解決の問題に対する判断を回避し、カルテルの対象であったサスペンション・アセンブリはそれ単体では米国に輸入されていなかったため、輸入除外は適用されないと結論づけました。[13] すなわち、輸入されたのは組立済みハードディスクドライブのみであり、それらはカルテルの直接の対象ではなかったことから、ハードディスクドライブについて輸入除外は適用されないと判断しました。
このように、輸入除外が適用され、米国反トラスト法が域外適用されるためには、輸入品が反トラスト行為の対象となった物品そのものでなければならず、輸入品を構成する部品などサプライチェーン上にある物品に対する反トラスト行為では輸入除外の要件は満たさないということになります。[14]
イ.国内取引例外
FTAIAにおいて国内取引例外が認められるためには、反トラスト請求をする原告は、被告の行為が(1)米国の国内取引に対して直接的、実質的、かつ合理的に予見可能な影響を有するものであり、かつ(2)反トラスト法上の請求権を発生させたことを立証しなければなりません。
裁判所は、米国の国内取引に対する「直接的(direct)」影響として何が該当するかについて、厳格な解釈を要求しました。すなわち、「直接的(direct)」影響とは、主張される反トラスト行為から介在事情を挟まずもたらされる(immediate)結果でなければならず、他の市場要因のような不確実な介在的事象に依拠することはできないと判断しました。[15]
日本発条は、別個に審理された刑事訴訟において、米国で販売されるサスペンション・アセンブリについて、競合他社と価格カルテルをしたこと、競合他社と価格情報を交換したこと、及び当該情報をサスペンション・アセンブリを購入する米国の顧客(Seagateを含む)との交渉に利用したことを認めていました。[16] また、決定的に重要な点として、日本発条は、当該行為が米国の国内取引に対して直接的、実質的、かつ合理的に予見可能な影響を与えたことも認めていました。そのため、裁判所は、当該行為が米国の国内取引に対して直接的、実質的、かつ合理的に予見可能な影響を与えたか否かの分析を回避し、日本発条の別件の刑事訴訟における自認に依拠して、国内取引例外の第一要件が満たされていると判断しました。[17]
裁判所はまた、Seagateが国内取引例外の第二要件(日本発条の行為が反トラスト法上の請求権を「発生させた」こと)も充足している可能性が高いと判断しました。裁判所は、日本発条とSeagateとの間の価格交渉が、カリフォルニア州においてSeagateの米国法人との間で行われたという事実に着目しました。その結果として締結された価格契約は、Seagate Thailand及びSeagate Singaporeを拘束するものであり、これらの外国子会社は取引ごとに価格交渉を行う権限を有しておらず、外国子会社には価格決定の自律性がなかったため、裁判所は、日本発条の当該行為以外に価格に影響を与えた可能性のある他の主体や要因は存在しなかったと認定しました。[18]
4.本判決と類似事件との関係
本判決では、本判決前になされた、第7巡回区控訴裁判所のMotorola Mobility LLC v. AU Optronics Corp.事件[19](以下「Motorola事件」)の判断と一見すると異なる判断がされています。
Motorola事件は、被告である複数の米国外の法人が、原告であるMotorola Mobility LLC(以下「Motorola」)の米国外の子会社に対し、米国外で、LCDパネルを販売し、その後、当該子会社が、当該LCDパネルを用いて米国市場向けの携帯電話を製造したという事件です。Motorola事件において、Motorolaは、被告らが、Motorolaが携帯電話の製造に使用したLCDパネルの価格カルテルを行ったと主張しました。
本判決と同様、Motorola事件でも、裁判所は、価格カルテルの対象となったLCDパネルに関する取引は「輸入取引」とはいえないと認定しました。[20] また、Motorola事件では、本判決と異なり、裁判所は、問題とされた取引が、米国の国内取引に対して直接的、実質的、かつ合理的に予見可能な影響を有し、反トラスト法上の請求権を発生させるものとは認定せず、米国反トラスト法の域外適用を認めませんでした。
このように域外適用に関する両事件の判決の結論は異なりますが、事実関係において、本判決とMotorola事件は異なる点があることに留意する必要があります。Motorola事件の判決において、裁判所は、問題とされた取引が、Motorolaの米国外の子会社が米国外で購入した取引であったと認定しており、米国の親会社が自ら購入した取引であったとは認定しませんでした。
さらに、Motorola事件では、Motorolaと被告らの間の交渉が米国内で行われたことを示す事実はありませんでした。Motorolaは、同社の米国外の子会社に対し、米国で決定した価格及び数量で発注書を発行するように指示したと主張しましたが、最終的に第7巡回区控訴裁判所は、米国外の子会社は独立の法人格を有する別個の会社であり、会社法及びIllinois Brick事件の判決[21]に基づく観点からも、その形式上の区別は無視できないとして、当該主張を認めませんでした。この形式上の区別は、本判決において重要であるように思われます。本判決では、米国外を含むグローバルな購入価格が、Seagateの米国の親会社により、米国で実際に締結された契約に基づき設定されていたことが認定されました。
5.本判決のグローバル企業に対する影響
特に環太平洋のサプライチェーンを有する製造業者にとって、輸入取引に対する第9巡回区控訴裁判所の判断は重要性の高いものと考えられます。本判決に基づく実務上重要な留意点は以下のとおりです。
- 輸入除外の適用基準:FTAIAの輸入除外の適用は、米国へ直接輸入される製品及びサービスに関する取引に限定されます。他方、最終的に米国に輸入され得る製品の部品に関する米国外の取引は、これまでの裁判例に従い、引き続き、輸入除外の適用対象とはなりません。例えば、ある日本のコンピュータの製造業者が競合他社とコンピュータ本体の価格カルテルを行い、それらのコンピュータ本体を米国に輸入した場合には、輸入除外が適用され、当該日本の製造業者及びその共謀者は、米国における刑事及び民事の反トラスト法違反の責任を負うおそれがあります。他方、当該製造業者が、コンピュータの部品である中央演算処理装置(CPU)について、米国外の販売価格のカルテルを行った場合に、それらのCPUを搭載したコンピュータ本体を米国に輸入しても、輸入除外は適用されません。
- 国内取引例外の適用基準:本判決では、日本発条がFTAIAの国内取引例外に基づき、責任を負い得ると認定されましたが、他方で、裁判所はFTAIAを厳格に解釈しています。具体的には、日本発条とSeagateの価格交渉が、米国内で、米国親会社との間で行われておらず、かつ自動的にSeagateの米国外の子会社に適用されるものでなかったならば、裁判所の判断は同様にはならなかった可能性が高いと考えられます。したがって、FTAIAにおける国内取引例外の適用範囲は依然として狭いといえます。米国外の企業は、米国反トラスト法の適用を回避したい場合、一般的に、また第9巡回区控訴裁判所[22]の管轄においては特に、米国内でのグローバル・サービス契約の交渉を避ける必要があります。
- 3 倍額損害賠償:米国反トラスト法に違反した場合、企業は重大な責任を負うことになります。特に、同法違反に基づく訴訟において、被告企業は、原告が受けた損害の3倍額の損害賠償及び弁護士費用の賠償義務を負う可能性があります。したがって、国際的なサプライチェーンを有し、米国反トラスト法上のリスクに懸念を持つ企業は、同法の域外適用の範囲の解釈に関する動向を注視し、疑問があれば米国反トラスト法を専門とする弁護士に相談する必要があります。
- 刑事事件判決及び有罪答弁:本判決において、日本発条が2019年に価格カルテルに関して刑事訴追された際に、有罪答弁(guilty pleas)を行ったことは、Seagateに対する民事の反トラスト請求を防御する上で致命的な影響を及ぼしました。米国外の企業は、刑事事件に対する有罪判決及び有罪答弁が、同一の行為に関する別個の民事事件において証拠として用いられ得ることに留意する必要があります。
[1] 「米国反トラスト法(独占禁止法)」は、① シャーマン法(Sherman Antitrust Act of 1890)、 ② クレイトン法(Clayton Antitrust Act of 1914)、 ③ 連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act of 1914)及びこれらの修正法等の法律の総称です。
[2] Seagate Tech. LLC v. NHK Spring Co., Ltd., No. 2404470, 2026 WL 61360, (9th Cir. Jan. 8, 2026) 2頁参照.
[3] 同判決8-10頁参照
[4] 3倍額損害賠償とは、裁判所が、陪審により認定された被告の実損害の3倍の金額の賠償義務を原告に課すものです。クレイトン法のSection 4(15 U.S.C. § 15)は、「反トラスト法により禁じられた事由により事業又は財産に損害を受けた者は、3倍額損害賠償、判決前利息、及び弁護士費用を含む訴訟費用を求めて訴えることができる」と規定しています。
[5] Kevin B. Goldstein, Second Circuit Clarifies When Foreign Conduct "Involves" Import Commerce Subject to U.S. Antitrust Laws, WINSTON & STRAWN LLP (Dec. 5, 2019), https://www.winston.com/en/blogs-and-podcasts/competition-corner/second-circuit-clarifies-when-foreign-conduct-involves-import-commerce-subject-to-us-antitrust-laws#_ftn1.
[6] シャーマン法は、大多数の米国反トラスト法制の制定法上の根拠となる成文法です。(15 U.S.C. §§ 1, 2(取引制限及び独占化行為における契約、結合及び共謀の禁止)参照)
[7] 15 U.S.C. § 6a参照
[8] 15 U.S.C. § 6a.及び, Goldstein, supra note 5 (discussing interpretations of the import exclusion) 参照.
[9] 15 U.S.C. § 6a; F. Hoffmann-La Roche Ltd. v. Empagran S.A., 542 U.S. 155, 163 (2004)参照。米国連邦最高裁判所による同判決は、米国国内取引又は国内競争者に対する直接的、実質的、かつ合理的に予見可能な影響が存在しない限り、米国において米国反トラスト法に基づく請求をすることは認められないと判断し、FTAIAの国内取引例外の適用範囲を限定的に解釈し、米国反トラスト法の域外適用に歯止めをかけた、FTAIAの解釈における最も重要な判断です。
[10] Empagran判決, 542 U.S. 158頁.参照
[11] 本判決7–8頁.
[12] 同上
[13] 同上
[14] 同上
[15] 同判決8頁参照
[16] Press Release, Japanese Manufacturer Agrees to Plead Guilty to Fixing Prices for Suspension Assemblies Used in Hard Disk Drives, U.S. Dep’t of Just. (July 29, 2019) 参照https://www.justice.gov/archives/opa/pr/japanese-manufacturer-agrees-plead-guilty-fixing-prices-suspension-assemblies-used-hard-disk.
[17] 本判決8–9頁参照
[18] 同判決9–10頁参照
[19] Motorola Mobility LLC v. AU Optronics Corp., 775 F.3d 816 (7th Cir. 2015) 参照
[20] 同判決819頁参照
[21] Illinois Brick Co. v. Illinois, 431 U.S. 720 (1977) 参照
[22] 第9巡回区控訴裁判所の管轄区域には、アラスカ州、アリゾナ州、カリフォルニア州、ハワイ州、アイダホ州、モンタナ州、ネバダ州、オレゴン州、ワシントン州に加え、グアム及び北マリアナ諸島の各準州が含まれます。
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